松崎駅
(山陰本線・まつざき) 2011年7月
色温度も高くなった大山の裾野をぼんやりしながら乗り通して、松崎に着くころにはもう18時を回っていた。ここで入浴するつもりだ。 列車から降りるとどっと疲れた。すでに暑さは和らいで、虫たちが今日一日をなんとかしのいだかのような悲鳴を弱弱しく上げている。
改札口はかつては広く開けて利用されていたようで、木造駅舎のある駅の中でも中規模以上の貫録を感じさせる。かつては特急も停車したのだろう。羽合温泉と東郷温泉ということで、そんな昭和なサインがいくつ掛かっている。
日本にもハワイがある!とのことで、小学生のころの社会科コラムでこの羽合のことはよく取り上げられていた。何のことはない、たまたまのことだが、小学生の時分にとっては、それだけでも想像力は喚起された。海も近いし。そんなところがあるんだよと親に言ってみたが、言った瞬間、自分のイメージするものは何もないのだろうという想念に僕は侵食され始めた。うちの親がオシャンな長野の上高地とかが好きだったというのもある。しかし僕はなぜか完膚なきまでの海派になってしまった。 ちなみに、そこにはないだろうというところにある、日本のハワイらしいハワイとして、敦賀の水島はよく挙げられる。海水浴しかすることがなく、チャーター定期便でしか渡船できないし、なかなか行きづらいところだ。飲み物なども買えないので絶対の注意である。
正体は砂丘っぽい里山の足元、その広がる堆積平野を縫い針のようにレールが走っている。枕木はPCだ。さすが本線だなにぁと思っていると、特急列車が通過。石を割り砕くような騒音で、ほんとに困難放置していていいのかと思えたほどだった。こんなん聞き続けてたら耳がやられるよ。地域住民は大丈夫なのか。まぁ、後は水田地帯だけど。 中国山地は早くも控えていて、ここはそれでも行き止まりの泊から解放され始めたところなのだ。
駅舎の中はしっかりしていた。やはりまだ観光地駅でもあるので、いろいろと直してある。出入り口サッシの引き戸がピシッとしていたのが印象的だった。だいたい外扉はもういい加減にしてあることが多いからね。室内のソーダバーの椅子も日光に当てられなかったこともあり、色あせていない。 一人、女子高生がケータイいしせりながら待っていた。その前には、かき氷がブシャーッとこぼしてあり、思わず彼女とそのかき氷を僕は交互に見てしまった。すると彼女は、かき氷を自分とは全く関係ないかのように怪訝に見つめて、自分のせいじゃないことを表現した。 にしても…この惨状を引き起こしてしまった不幸な子はいずこに… だいぶ泣いたんじゃないか? いや、これが暑さに耐えかねたおじさんが買ったものであったとしても、十分に悲痛だ。叔父さんだって、結構心の中では泣いたに相違ない。
駅から出ると東郷温泉の門と、その向こうにはすぐ湖が。うわー、来てよかった、と。土産物屋街もおもしろそうだ。旅情がかなり濃い。駅も瓦葺きだし、あるがままにやっていっている感じが、自分のスタイルには合っている気がした。
通りを歩くほど、「そう、まさにこれ!」と。だって鳥取といえば梨でしょ。情緒深いそんな店がいくつかあって、こういうのを探していたんだよ、と。それはどこかで見た記憶があるか、あるいは何度も想像してやまなかった山陰の、鳥取のそれが、まさにここにあったという感じだ。 「ここにあったかぁ…」 むろん店はもうあまりやってない感じだった。それでもこの通りが当時を生きた証に、僕は出会うことができた。改装前の鳥取駅や、砂丘のおみやげ会館にも、僕の想像していた鳥取は確かにそこにあった。けれどとある町の駅前にそれを見出したのは、ここがはじめてだ。
みずうみまで来ると、ちょっと保養地っぽい感じだ。夏のひなが、ギリ赤銅かかるかくらいの時分、とかく、漫々Plentyたる汽水湖が、夏の日差しで疲れた僕の目を泳がせ、休息(repose)させてくれる。- Pose , fermata そんな表現でもいい。ここに夕暮れ時の涼しい風でもあればよいが、とかく蒸し暑かった。湖ももはや淡水ぐらいに感じることもあるくらいだ。
いったん湖まで出た後は、少し戻って公共の温浴施設に向かった。ここは安くて設備がいいので、旅人がみんなマークしているようなところのはずである。受付ですんなり受け入れてもらい浴場へ。
おもーい荷物を下ろして、適当に入浴セットを引っ張り出し、浴室へ。おんとに久々のお風呂で、最後に入ったのが何と三江線の潮温泉である。虫と江の川の川風と、石見の潮風と日焼けとにやられて、もう無茶苦茶。文字通り、この日の入浴は命の洗濯となった。 明るいうちは外を歩き回ることにしていたが、この日ばかりは日が長すぎて放棄。風呂につかりながら、これで200円って、ほんとに福祉だなと。福祉最高。もともと温泉地だというのもある。 しかし長くはつかれなかった。やっぱり夏だからだろう。